愛を語るには幼すぎたと幸せから目を背けたのは、自分の弱さと向きうことを恐れたからだ。



春は出逢いと別れの季節とはよく言ったもので、今年も大好きな職場の先輩を見送った。幾度となく経験しても別れは切なくもどかしい。



遠い昔、大学四年生の頃かな、ぼくは恋をした。初めての出逢いは素敵なものとは言えなかったけど、彼と過ごす何気ない時間に当時のぼくは安心を覚えた。

生まれて初めて手料理をご馳走して貰い、お礼にぼくも慣れない料理を振る舞った。振る舞ったといえる内容の食事ではなかったけど、喜んで欲しくて一生懸命作った料理を美味しいと言った彼の優しい笑顔を今もふと思い出す。

少ないお休みの中でも時間を作ってはぼくを膝の上に乗せて、パソコンに向かう彼の匂いが大好きだった。

彼の仕事を見ながら寝てしまうのが癖になっていたぼくはいつものように日が暮れるまで寝てしまったあの日。目を覚ますと彼がぼくの頭に手を乗せて「君と側にいるだけで幸せだよ」と言ってくれた彼の優しさに、いつの日からか甘えてしまっていたのだろうか。



学生と社会人。思いやりも持てずに恋を振り回したあの頃のぼくに、愛を手にする資格はなかったのかもしれない。

入社してすぐに、彼から「もう疲れたよ。終わりにしよう」と連絡を受けた。仕事の手を止め、中庭に咲く桜の木の下で静かに泣いたあの日のことを桜が咲くたびに思い出す。



社会人も6年目になり、今年も真新しいスーツを着た青年たちと通勤電車に揺られる。窓から心地よい光を浴びて、彼の声や匂いを思い出す。

ふと、瞳をとじて柔らかい春の光を受け止める。

懐かしいその景色が浮かび、慌ただしく過ぎていくその瞬間を特別なものに変えていくのだ。



愛を語るには幼すぎたと幸せから目を背けたのは、自分の弱さと向きうことを恐れたからだ。